Interview 027

H TOKYO

H TOKYO

刺しゅうを入れることで、
選んだ一枚がより特別になる。

August 20, 2021

今回は、主にオリジナルのハンカチを揃えているハンカチ専門店「H TOKYO」へ。世界中から選りすぐった上質な素材を使い、すべて日本で作られるというハンカチはもちろん、刺しゅうミシンでイニシャルやモチーフを入れるサービスも人気です。13年前にオープンした三宿店で、広報の志摩さんに刺しゅうミシンを動かしていただきながら、お話を伺いました。


ーーなぜハンカチの専門店を始められたのですか。

オーナーの前職がメンズ小物のバイヤーで、自分好みのハンカチが少なかったことから、男性用が中心のハンカチの専門店を作ろうと考えたのがきっかけです。「H TOKYO(エイチ トーキョー)」三宿店は、2008年9月にオープンしました。常時200種類ほど取り揃えていて、基本的には天然繊維で、コットンまたはリネンを用いています。メインはシャツ生地に使われているベーシックなチェックやストライプの「スタンダードシリーズ」で、密度が高くてしっかりしているのが特徴で、兵庫県の西脇や静岡県の浜松、イタリアやオーストリア、スイスなど、国内外から上質なものをセレクトしています。シャツ生地は柄のバリエーションが豊富なのですが、夏に男性が着ているシャツを見て「弊社のハンカチと同じ」と思うこともあるんですよ。ただ生産量が少なめで店頭からなくなる柄もあるので、気になる柄を見つけたら、その時にご購入されるのがおすすめです。

写真家やイラストレーターなど、国内外の作家とコラボレーションしたハンカチもあります。例えば人気の刺しゅう作家であるmacaroniさんのハンカチ(写真上から1枚目)は、ご自身が好きな香港をモチーフにした刺しゅうをプリントしたもので、香港がお好きなお客様にもご好評いただいています。現代アーティストの加賀美健さんも人気がありますね(写真上から2枚目)。作家同士のつながりで、新しい作家に加わっていただくこともあります。

ーー「H TOKYO」のハンカチは、すべて日本製なんですよね。

そうです。高度な技術を持つことから日本製がいいというのもありますが、目が届く範囲でものづくりをしたいという考えから、縫製とプリントは国内、主に横浜の工場で行っています。やはり意思の疎通がしやすいです。縫製は基本的に「千鳥縫製」という、ギザギザとした手縫いのようなかがり縫いで、多く流通している三巻き縫製と比べると、糸が出にくくてきれいに仕上がると言われています。インポートなどの上質な生地の場合は手巻きで縫製をしていて、熟練の職人が一枚一枚手作業で縫っているので、通常より時間もコストもかかりますが、肌あたりが柔らかく、ふんわりした仕上がりになります。貴重な技術を残していきたいという気持ちもありますね。お直しも無償で行っているので、もしほつれなどが出てしまった場合は店舗にお持ちいただけたらと思います。

先日、縫製工場を見学したのですが、「swimmie(スイミー)」という女性向けのブランドで採用している、シジミが並んでいるように見えるシジミ縫製やお花のような花メロー(写真上から3枚目)という縫製を行う工場で、すでに製造を中止している専用ミシンが現役で活躍しているのを実際に見ることができました。製造現場を直接見て、お話を聞くと、ハンカチへの思いがより強くなります。

ーー「swimmie」はどんなブランドですか?

「swimmie 」は2014年に立ち上げたのですが、女性向けなので、「H TOKYO」とは違って薄手でツヤ感がある生地が豊富です。ハンカチとしてだけでなく、スカーフとして首や頭に巻いて使っていただけたらと考えています。特に人気が高いのは、2015年から毎年発売している「こよみチーフ」という暦をプリントしたもの(写真上から4枚目)。カレンダー代わりに壁に飾ったり、贈り物にしたりと使い道も様々です。このまま使う方もいらっしゃいますが、ご家族の誕生日や記念日に刺しゅうを入れる方も多いです。使用後でも入れることが可能なので、お子さまが生まれたときに刺しゅうを足してほしいとご依頼いただくこともあって。思い出がどんどん増えていくと楽しいですよね。

ーー刺しゅうを入れるサービスを始めた理由を教えてください。

ハンカチだけだと単なる既製品になってしまいがちですが、刺しゅうでメッセージや名前を入れることでよりパーソナルなものになるので、プラスαを大事にしたいという思いから、刺しゅうミシン(写真上から5、6枚目)を導入してサービスを始めました。実店舗をオープンする前、オンラインショップのみだった頃から続けていて、三宿店だけでなく、「H TOKYO」の他の店舗にも置いています。刺しゅうは入社して一番最初に教わる仕事なので、スタッフ全員ができます。 イニシャル刺しゅうやクロスステッチなど、一文字か二文字入れる場合はオーダーをいただいた当日にお持ち帰りが可能で、それ以上になると5日間かかります。一カ所400円で15文字まで、フォントや大きさも選んでいただけるので、メッセージを入れる方も多いですね。位置も指定できるのですが、作家のハンカチなら柄に合わせて入れられる方もいらっしゃいます。糸は、三宿店ではだいたい50色ほどそろえていて、イメージがわきやすいようにアクリル板に巻いた色見本もご用意しているので(写真上から7枚目)、刺しゅうしたいものに当てながらご相談をお受けしています。ハンカチが暗い色なら刺しゅうは明るい色、明るい色なら薄い色やポップな色と相性がいいので、おすすめすることが多いです。
英語以外にも、フォントは限られますがひらがなや漢字も選べますし、ハンカチの他にもトランクスなど、店頭で販売している布ものであれば入れることができます(マスクを除く)。

パンのモチーフは三宿店限定で入れていただける刺しゅうです(写真上から8枚目)。フランスパン、イギリスパン、フルーツサンドが人気ですね。上野店はパンダ、KITTEにある丸の内店はポストと、限定の刺しゅうは店舗によって異なります。三宿店はオーダー刺しゅうといって、企業のロゴや似顔絵など、持ち込んでいただいたイラストデータを刺しゅうにするサービスも行っています。

ーー刺しゅうはどんなときにオーダーされる方が多いですか。

6〜7割はお礼やお誕生日などのプレゼントで、女性にオーダーしていただくことが多いです。ゲストのイニシャルを入れたハンカチを結婚式の席札がわりにするというご夫婦や、恋人に思い出の曲の歌詞の一部を入れて贈るという男性もいらっしゃいました。退職される方や卒業される方へなど、様々なシーンにメッセージを入れてハンカチを贈る方もいらっしゃいますね。実用的ですし、刺しゅうを入れることで特別な一枚になるので、贈り物にもぴったりだと思います。 手刺しゅうにはあたたかみがありますが、ミシン刺しゅうもぬくもりが感じられるし、何より正確さが魅力です。

刺しゅうと並んで、遊び心のある刺しゅうワッペンも人気です(写真上から9枚目)。「H TOKYO」の全店舗に置いているアイロンでつけられるオリジナルのワッペンで、単体でのご購入はできないのですが、ご希望の方にハンカチにつけてお渡ししています。ワンポイントとしてつけたり、刺しゅうをした文字の横につけたりと、いろいろ楽しんでいただけるのでおすすめです。
ハンカチと刺しゅうや刺しゅうワッペンの組み合わせは無限にあるので、ぜひご自分だけの一枚を見つけていただけたら嬉しいです。

text:増田綾子 photo:中矢昌行


取材後記

わたしにとってハンカチはお守りのようなところがあります。

緊張する場面や出先でのちょっとした時にあると落ち着く存在。
そして、誰に見せるわけでもないけれど、ちょっとしたおしゃれを楽しむものかもしれません。
そんなハンカチを専門に製造、販売されていて、刺しゅうの施された商品や刺しゅうを施すサービスをされているH TOKYOさんは以前から好きなお店。
目の届く範囲でつくりたいと、JAPAN MADE を大切にしつつ、創業者、お客様の気持ちを大切にされたサービスには素敵なストーリーがたくさんありました。

ハンカチという毎日のように使うものでありながら、不具合があればいつでもお直ししてくださるところや、買ったその日ではなくても、自社の商品であれば刺しゅうを施してくれるところなど、作ったものと、買ってくださった方への愛情とそこに寄り添う刺しゅうのあり方は、とても参考になりました。
働きはじめて最初に教わるのが『刺しゅうのこと』というのもとても素敵だなと感じました。
各お店限定の刺しゅうだったり、オリジナル刺しゅうの相談だったり、自分ではできないけれど、刺しゅうに想いをこめて贈り物をしたいときにはとっても頼もしい存在だと思います。
これからもたくさんの方々のポケットやかばんに小さな物語が増えると嬉しいです。

atsumi


Information

H TOKYO 三宿店

東京都世田谷区太子堂1-1-11
03-3487-4883
11:00-19:00
月曜日休(祝日の場合は翌日)