Interview047

Tomoko Taka

Rei Yanase

刺す理由は自己満足のため。
自分が楽しい刺しゅうが一番。

August 18, 2023

刺しゅうの魅力や惹かれた理由を聞く連載インタビュー。金沢にあるアトリエ兼ショップ・taffetaにて、セレクトした雑貨などの販売を行いながら、刺しゅう作家としても活動する髙知子さん。様々な企業とコラボレーションしたアイテムや、刺しゅうのユニークな表現方法についてお話を伺いました。


ーーこちらのお店(写真上から1枚目)はどういった経緯でオープンしたのでしょうか。

元々は、新竪町という同じ商店街の中にあるbenlly's & job(ベンリーズアンドジョブ)という雑貨屋さんに勤めていたんです。16年働いたタイミングで「benlly's & jobのアトリエを移転するから独立したら?」と言われ、当時オーナーが工房として使っていたこの場所に、刺しゅうのアトリエ兼好きなものをセレクトしたショップとして2011年にtaffetaをオープンしました。そのときから刺しゅうをやっていたので、お店番をしながら刺しゅうの制作もしていました。

ーー刺しゅうを始めたきっかけについて教えてください。

服飾とか美術系の学校を出ているわけではなく、小さいときから好きだった図工の延長で刺しゅうを始め、当初は米Amazonで買った刺しゅうのキットをやっていました。それがすごい楽しくて他の図案もやってみたくなったのですが、私は絵が描けないので知り合いのイラストレーター・Noritakeくんの線画を、許可をもらって刺しゅうしていました。どこかに発表するわけでもなく自己満足でやっていたのですが、やっぱり自分で描いた図案ではないので「何か違う」とずっと引っかかっていたんです。

そんなタイミングでベトナムの刺しゅうを見る機会があり、細かいお花の刺しゅうがかわいいなと思って、それまでは線画でしか刺していなかったのですが、サテンステッチで面を埋めるような刺しゅうをやってみたくなったんです。でも実在する花をリアルに刺すには絵が描けないとダメだと思い、「自分が思うお花でいいや」ということから架空のお花を刺すようになりました。ピンクッションやブローチ、ヘアゴムなどの小さいものを作っていたら、友達から欲しいと言われるようになり、benlly's & jobのオーナーが「お店で売る?」と言ってくれたのが作家活動のスタートです。

ーーそこからはどのように活動の幅を広げていったのでしょうか。

金沢21世紀美術館で、誰でも審査なしで作品を展示できるアンデパンダン展があり、声をかけてもらい私も作品を出すことになったんです。まだ点数がそんなになかったのですが、「何かを作り上げるには100個以上作らないと自分のものにならない」という感覚があって、展示に向けて100個刺しゅうをしました。ただ、展示が終わってからは作品を家にしまったままにしていて、友人に「家に置いといてどうするの!」と怒られてしまったんです(笑)。私はぽかんとしていたけれど、周りが東京で個展をやろうと話が盛り上がっていき、参宮橋にあるtrayで初めて個展を開いたのが14、5年前になります。それからは、知り合いにお声がけしてもらってちょこちょこ個展をやったり、クラフトフェアにでるようになりました。

展示やイベント以外にも、不定期ですがお店でワークショップもやっています。私のことを「刺しゅう名人」と呼ぶ近所のちびっ子たちがいて(笑)。子どもは好きな絵を描いてそれを刺しゅうしているのですが、大人は私の方で題材を決めています。ワークショップ用の図案はその都度考えていて、ひとつのテーマにつき3種類ぐらいのパターンを用意しています(写真上から2枚目)。お店もやっているから親近感があるようで、完成した作品を見せに来たり何度もリピートしてくれるお客さんが多いですね。

ーー図案を考える際は、何か参考にしているものがあったりするのでしょうか。

実はPerfumeのファンなのですが、幾何学模様はその影響を受けています。Perfumeのライブや映像ってテクノロジーを駆使していて、照明やCGの演出がすごいんです。私の作品は色使いが独特と言われることもあるのですが、色の組み合わせなんかもPerfumeから感化されている部分があると思います。

ーー意外なところからインスピレーションを得ているんですね。髙さんにとって、思い出に残っている刺しゅうを教えてください。

立体をやってみたくて作ったリンゴの作品です(写真上から3枚目の右)。それまで平面でリンゴの刺しゅうをしたことはあったけれど、逆に立体にしたら面白いんじゃないかと思って。フェルトの中に綿を詰めて形をまん丸にし、持った状態で刺しゅうをしました。けっこう大変な作業だったのですが、自分に挑戦することが好きなので楽しみながら作れたし、刺しゅうの新しい表現方法を模索するようになったきっかけの作品です。

あとは、石川近代文学館のお仕事で作成した刺しゅうも思い出深いです(写真上から3枚目の左)。小説や和歌、短歌などに登場する植物を刺しゅうにしてほしいという依頼で、架空の花ではなくリアルな花を刺しました。今までは自由に刺しゅうしてきたので、しばりがあるというのが初めてだったのですが、やってみたらすごい面白くて!クライアントワークはやったことがないことだらけで大変な部分もあるのですが、その分やりがいがあります。依頼された以上のものを作らなきゃという気持ちになりますし、それで向こうが喜んでくれたら嬉しいですね。

ーー他にもクライアントワークをやっているのでしょうか。

最近は、STAMP AND DIARY(スタンプ アンド ダイアリー)というブランドと刺しゅうの洋服を作りました(写真上から4枚目)。benlly's & jobで働いていたときに取引していたアパレルメーカーの方が立ち上げたブランドで、今年が10周年ということで記念に行なったコラボです。ミシン刺しゅうだと柄が均等になりやすいので、ランダムになるようあえてずらしてもらったり、手刺しゅうとは違う難しさもありました。

また、福井にあるカーテン会社と一緒に、filamentというブランドを立ち上げました。自社工場内に機械刺しゅうやインクジェットプリンターなど様々な機械があり、それらを活用しながら商品開発にも積極的に取り組んでいる会社で、カーテン以外の商品を作ろうとなったときに声をかけてもらいました。最初は何を求められているのかも分からずお互いに手探り状態だったのですが、私が出すアイデアをすごい面白がってくれて。トートバッグやラッピングクロスなど、「作りすぎ!」と言われるぐらいたくさんの柄を作りました(笑)。手刺しゅうだとチェーンステッチにしているところも、機械刺しゅうでは他のステッチに変えたり、糸の種類も違うので何度も調整を重ねました(写真上から5枚目)。やっとスタートしたばかりのブランドですが、刺しゅうの延長のような仕事ができて、いい経験になりました。

ーー刺しゅうという枠組みを飛び出して、新しいことに挑戦しているのですね。

ポリエチレンの糸で適当に編んで作った、「食べ物シリーズ」なんてものもあります(写真上から6枚目の手前)。お肉、ラーメン、のり巻きを作ったのですが、ラーメンを超えるものがなくて次に進まなくなってしまって(笑)。「衝動シリーズ」は、果物を包むネットに刺しゅうしたい衝動を抑えられず作りました(写真上から6枚目の奥)。何で刺しゅうをしているのかというと自己満足のためなので、自分が刺していて楽しいのが一番なんです。あとは、立体のような違うアプローチをすることで、刺しゅうの扱われ方を変えていきたいという思いもあります。刺しゅうは道具や材料も高額ではないし、一般の人でも比較的簡単にできるので、軽く見られている気がしてしまって。私自身もガラスや陶器などの硬い素材に憧れがあるのですが、そういった空気感を変えていきたく、一連のシリーズのような少し変わったものを作り続けています。

3月にhomspunで行なった個展「自由研究 刺繍研究」展では、刺しゅうで違う表現をしたいと思っていたのをやっと実現できました。刺しゅうの展示にも楽しいとか面白いことも必要だと感じていて、被り物を作ったんです(写真上から7枚目)。うさぎのおもちゃに色々な柄の生地を被せた作品があり(写真上から8枚目)、それと同じようなものを作りたかったのですが生地が足りなくて(笑)。うさぎと同じように目を入れて、生地の端には針金を入れました。顔が見えないと恥ずかしくないからか、お客さんが色んなポーズを自らしてくれて、評判も良かったですね。

ーーその他に今後やってみたいことはありますか。

homspunでの個展みたいに、来た人が楽しんでくれる展示はこれからもやっていきたいです。みんなから期待をもらうので、それを裏切る違う見せ方ができたら楽しいですね。個展は毎回そのときのベストでやっていますが、終わった後に「もっとこうしたかった」と満足していない自分がいるんです。それがあるから今まで続けてこられたというのもあるので、これからも継続して新しい見せ方を模索していきたいです。

text :藤枝梢
photo : 中矢昌行

取材後記

10年近く前に金沢のお洋服屋さんで小さな展示をさせていただく機会がありました。それが初めての金沢滞在。まだ新幹線が通っていなかったので、飛行機で行ったのを覚えています。その滞在中にtaffetaを訪れたのが髙さんへの初コンタクト。

その当時は、まだ刺しゅう作家の活動を始めて数年だったこともあり、自分から声をかけることはできなくてお店や、お店に少しあった作品を見て静かに店を後にしました。その後も、髙さんは気になる存在だったので、東京で展示をされている時などに見せていただいたのですが、ご本人にお会いすることはなく、今回念願のご対面となりました。共通の知人がいたことと、髙さんの懐の深さのおかげでお会いしてすぐに、ずーっと前からの知り合いのような居心地の良さに緊張はほぐれてたくさんお話しさせていただきました。

刺しゅう作家としては珍しいお店(しかも手芸店ではない)と作家活動を両立されていることをとっても不思議に思っていましたが、お話を伺うとなるほどなぁっと思うばかり。髙さんが過ごしてきた環境と時間が作品に反映されているんですね。暮らしの中にある全てがインスピレーションの源であり刺しゅうの素材になりえる。本当にそうだと思います。 持ち前のサービス精神が作品づくりに大きく関わっていることにも、大きく納得。人が楽しんでいる姿を見るのが好きだからこそ生まれた作品たちだから、刺しゅうも楽しげで見る人をにっこりさせてくれるんですね。

わたしと髙さんでは仕上がるものが全く違うけれど、同じように感じたことから新しい作品が生まれたり、硬いものに憧れがあるところなどは共通していて、それも嬉しい発見でした。ここまで活動を続けてこられたご本人の努力や意志はもちろんですが、周りが髙さんをほっとかないから素敵なお仕事をたくさんされてきたんだなぁっというのも、人間力の成せる技っと感心しきり。
これからも憧れと少しのジェラシーを持ちながら髙さんのことを追っかけてしまうんだろうなっと思った取材でした。ぜひ、金沢に行かれる際は、髙さんのお店を覗いてみてください。

atsumi

Tomoko Taka

石川県金沢市在住。金沢に刺しゅうのアトリエ兼ショップ・taffetaを構え、セレクトした雑貨や洋服などの販売と刺しゅうの制作を行う。著書に『花と幾何学もようの刺繍』(文化出版局)。

https://ateliertaffeta.com/